盛り塩の意味と由来は?中国の史書の原文と清め塩との違い、置き方・替える目安

先に結論:盛り塩(もりじお)は、店の入口や家の玄関に、少しの塩を盛って置いておく習わしです。国語辞典では、料理屋や寄席のようにお客を迎える商売が縁起を祝って行うものと説明されています。由来には、中国の史書にある「塩水で皇帝の車を引き寄せた」話や、塩で身を清める考え方などが語られますが、どれが始まりかは決まっていません。形や替える間隔にも全国共通の作法はありません。

まずはひとつ、「へぇー」を

塩なのに、呼び名は「花」。盛り塩には「盛り花(もりばな)」という別名があり、国語辞典では生け花の盛り花と同じ見出しの中に、二つ目の意味として並んでいます。

編集:へぇ助

辞典が描く盛り塩は「お客を迎える店の縁起」

国語辞典を引くと、盛り塩は商いの習わしとして出てきます。例に挙がる店はデジタル大辞泉が飲食店、精選版日本国語大辞典が料理屋・待合で、寄席はどちらにも並びます。目的として書かれているのは、縁起を祝うことです。

言葉としては、江戸時代の後期には使われていました。精選版日本国語大辞典は、1838〜40年ごろの人情本(江戸の町人の恋愛などを描いた読み物)『春色籬の梅』を用例に挙げています。盛り塩をした門口へ客が入っていく場面です。

いまは家庭の玄関に置く例もあり、盛り塩用の塩を授与して置き方を案内する神社もあります。

由来として語られる話は一つではない

中国の史書にある「羊車」の話

よく紹介されるのが中国の後宮の話です。ただ、史書の原文を確かめると似た話が二つあり、どちらも塩を「盛った」話ではありません。

一つめは『晋書』の后妃伝(皇后や妃の伝記)にある胡貴嬪の項です。3世紀、晋の武帝(司馬炎)は呉を平定したあと後宮の女性がたいへん多くなり、羊車という車に乗って、車が着いた部屋で夜を過ごしていたといいます。宮女たちは戸口に竹の葉を挿し、地面に塩汁をまいて、帝の車を自分のもとへ引き寄せようとした、と書かれています。

二つめは『南史』の后妃伝で、5世紀の南朝・宋の文帝と潘淑妃(はんしゅくひ)の話です。羊車で部屋を巡る文帝を迎えるため、潘淑妃は側仕えにひそかに塩水を地面にまかせ、車を引く羊がそこをなめて動かなくなった、と記されています。どちらも唐の時代(7世紀)にまとめられた史書です。

お客の足を止める連想から盛り塩と結びつけられる話ですが、史書にあるのは地面にまいた塩水です。日本の盛り塩へのつながりを示す記録は、本記事で確認した辞典には載っていません。

塩で清めるという日本の考え方

もう一つの筋は、塩を清めに使う日本の習俗です。改訂新版 世界大百科事典の「塩」の項(民俗の部分、坪井洋文執筆)は、祭りの供え物や神輿の清め、力士が土俵にまく塩と並べて、料理屋の盛り塩を、塩を清めに使う例の一つに挙げています。

神社本庁の公式サイトは、葬儀などで塩を使うことを、日常と非日常を区切る清めの行いと位置づけ、その背景に、伊邪那岐命(いざなぎのみこと)が海水で禊(みそぎ)をした古事記・日本書紀の神話を挙げています。ただし、このページは盛り塩には触れていません。

お参りの前に手と口をすすぐのも、水で身を清める作法です。順番は手水の作法と柄杓を使う順番で整理しています。

神棚に供える塩との関係

東京都神社庁は、神棚への毎朝のお供えを米・塩・水とし、米と塩は白い小皿などに山の形に盛って、向かって右に塩を置くよう案内しています。見た目は盛り塩に似ていますが、こちらは神様へのお供え(神饌)で、置く場所も意味合いも別のものです。

4つの「塩」を場面で比べる

種類 場所・場面 塩の扱い 語られる意味 立場・補足
盛り塩 店の入口、家の玄関 小皿などに盛って置いておく 客商売の縁起(国語辞典)、清め(世界大百科事典の民俗の項) 全国共通の作法はなく、神社の案内も一様でない
神棚の塩 家庭の神棚 毎朝、白い小皿などに山の形に盛って供える 神様へのお供え(神饌) 東京都神社庁の案内では、米・水と一緒に供える
清め塩 通夜や葬儀のあと 参列した人が塩で自分の身を清める 日常と非日常を区切る清め(神社本庁) 真宗大谷派は用いない立場をとる
土俵の塩 大相撲の土俵 取組の前に力士がまく 清めの一例(世界大百科事典) 日本相撲協会は、相撲がかつて作物の実りを占う祭りの儀式だったと説明

同じ塩でも、盛り塩と神棚の塩は「置いておく」もの、清め塩と土俵の塩は「その場でまく・振る」もの、と二つに分けると覚えやすくなります。

置き方・替え方は、神社の案内でも分かれる

盛り塩の形や数、替える間隔を全国共通で定めたものはありません。盛り塩用の塩を授与している神社の案内を二つ並べてみます。

項目 白鬚神社(宮崎県川南町) 徳守神社(岡山県津山市)
形 円錐形か八角錐形を基本とする 炒った塩でさらさらしているため、型で固める必要はないとする
置く場所 玄関先のほか、家・会社・店舗など 玄関の内側を基本とし、玄関は1か所をすすめる
替える目安 月に2〜3回 長くても1か月。湿って溶けたら早めに替える
使い終わった塩 ページに記載なし 再利用せず、多めの水で流す

形も替える間隔も、神社によって案内が違います。店や家庭で続けてきたやり方があればそれを大切にし、迷うときは塩を受けた神社の案内に合わせると無理がありません。

梅雨どきや水回りのそばでは、盛り塩が湿って形を保ちにくくなります。家庭で使う塩にはマグネシウムの塩などがわずかに混じっていて、そのぶん低めの湿度でも水気を帯びるからです。混じりけのない塩化ナトリウムでも、湿度が75%以上になると湿気を吸うと改訂新版 世界大百科事典は説明しています。置き場所は、小さな子どもやペットが触れにくい所を選ぶと安心です。

盛り塩をめぐるよくある誤解

誤解1:中国の話では、塩を盛って牛車を止めた

史書に出てくるのは羊車で、塩は地面にまいた塩水でした。日本では、平安時代の牛車の牛を止めた話として紹介されることもありますが、本記事で確かめた辞典や史書には、そうした日本の記録は示されていません。

誤解2:盛り塩は、神社が定めた正式な作法

国語辞典は客商売の縁起の習わしとして説明しており、神社本庁の「清め塩」の解説も盛り塩の作法は扱っていません。前の表のとおり、神社どうしでも案内が異なります。

誤解3:お葬式の清め塩は、どの宗派でも使う

真宗大谷派(東本願寺)の公式サイトは、清め塩を、死をけがれとみる見方から生まれた習わしと位置づけ、亡き人をけがれ扱いすること自体を「生きている者の身勝手な考え方」として退けています。宗派ごとの忌中・喪中の考え方は忌中と喪中の違い(浄土真宗の考え方も)で比べています。

浄土真宗本願寺派(西本願寺)の公式サイトでも、四州教区今治組が清め塩の配布の廃止などに取り組み、2017年にリーフレット『葬儀の心得』を作ったことが紹介されています。神道と仏教の成り立ちの違いは神社とお寺の違い(まつる対象・建物・歴史)が参考になります。

もうひとつ、「へぇー」を

戸口に置く清めは、塩とは限りません。福岡の筥崎宮では秋分の日にいちばん近い戊(つちのえ)の日に、箱崎浜の真砂を持ち帰る「お潮井取り」が行われ、その砂は田畑や建て替える家の敷地にもまかれます。

編集:へぇ助

盛り塩のよくある疑問

Q. 盛り塩に使った塩は、料理に使ってもいい?

A. 全国共通の決まりはありませんが、徳守神社は再利用しないよう案内しています。玄関などに置いた塩はほこりがつき、湿気も吸っているので、食べ物には回さないのが無難です。

Q. 盛り塩にはどんな塩を使う?

A. 決まった種類はありません。神社が授与する塩でも、白鬚神社のように天日干しした塩に玄米と五色の切麻(きりぬさ。お祓いに使う紙片)を合わせたものや、徳守神社のように炒ってさらさらにしたものなど、作り方に違いがあります。

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出典・参考