柊鰯(ひいらぎいわし)とは?節分に飾る理由と地方の呼び名、いつまで飾るか

先に結論:柊鰯(ひいらぎいわし)は、節分に鬼を家へ入れないよう願って作る魔よけです。とげのある柊の枝先に焼いた鰯の頭がついた姿で、玄関や窓のそばに挿しておきます。とげと焼いた頭のにおいを鬼が嫌う、という言い伝えがその理由とされます。ヤイカガシ(焼嗅)など呼び名は土地ごとに違い、鰯の代わりにボラやエビを使う地域もあります。外す日に全国共通の決まりはありません。

まずはひとつ、「へぇー」を

三重県の名張市や旧青山町では、柊鰯を「イタイクサイ」と呼んでいたそうです。柊のとげは痛く、焼いた鰯は臭い。鬼が嫌うとされる二つの理由が、名前にそのまま並んでいます。

編集:へぇ助

柊鰯は「とげ」と「におい」の二段がまえ

なぜ柊と鰯なのかは、柊のとげが鬼の目を突き、焼いた鰯のにおいと煙も鬼を寄せつけない、という言い伝えで説明されます。農林水産省の広報誌「aff」の連載「日本の年中行事と食」の節分の回(和食文化国民会議監修)も、いわしを焼く臭いと煙で邪気を払うといわれる、と紹介しています。効き目が確かめられたものではありません。

柊はモクセイ科の常緑樹で、11月ごろに香りのよい白い小花を咲かせます。「ひいらぎ」の名は、とげが刺さってひりひり痛むことを表す古い動詞から来たと、同志社女子大学のコラムで吉海直人教授(執筆当時)が解説しています。

呼び名を並べると、土地ごとの受け止め方が見えてくる

資料で確かめられた別名を、当サイトで一覧にしました。

呼び名 記録のある地域・資料 ひとこと
ヤイカガシ・ヤッカガシ・ヤキカガシ(焼嗅) 精選版 日本国語大辞典、世界大百科事典 焼いて嗅がせる作り方が名前に
オニノメツキ(鬼の目突き) 三重県の東紀州、世界大百科事典 主役は柊のとげ
オニカザリ(鬼飾) 三重県の旧島ヶ原村・阿山町 飾りであることを前に出した名
アラクサ/アクサ鰯 三重県の志摩地方の大部分/旧嬉野町・松阪市・宮川村、南伊勢町の沿岸の浦々 同じ県内でも場所ごとに名が違う

三重県の県史編さんグループの記事によると、三重では県内の広い範囲でこの飾りが作られ、場所ごとに呼び名が分かれていました。全国一律の作法ではなく、土地の言葉で受け継がれてきた習わしだとわかります。

古い記録を年代順に読む:正月の門飾りから節分の鬼よけへ

「柊鰯は平安時代から」と紹介されることがあります。ただ、昔の暦では節分と正月がとても近く、立春前日の節分が大みそかより先に来る年もありました。日本大百科全書は、そのために正月と節分の行事の境目があいまいになったと説明しています。

時代 資料 書かれていること 読むときの注意
935年(承平5年)の元日 紀貫之『土佐日記』 都の家々の門のしめ縄に付けた、なよしの頭や柊を思いやる 正月の飾り。なよしはボラの若いころの名で、鰯ではない
1648年 俳諧書『山の井』の節分の項 都の町の習わしとして、鰯の頭と柊の枝を「鬼の目つき」と呼んで外に挿す 節分の記事に組み合わせが出る早い例
1688年 井原西鶴『日本永代蔵』 世間の家々と同じように鰯の頭と柊を挿し、豆をまく 町人のありふれた習わしになっていた様子

前述のコラムで吉海教授は、二つを組み合わせた確かな記録は江戸時代以降とみており、『土佐日記』は元日の場面で鰯も出てこない点を挙げています。正月の門飾りがまずあり、江戸時代までに節分の鬼よけとして形が整った、と考えると記録の並びは理解しやすくなります(資料から読める道筋の一つです)。

『土佐日記』でしめ縄にあたる語は、しりくべなわ(しりくめなわ)です。辞典では、神聖な場所を区切る縄の古い呼び方とされます。入口を守る正月飾りの考え方は門松・しめ飾り・鏡餅の役目の違いでも比べています。

食べ物の呼び名にも、正月と節分の重なりがのぞきます。1814年(文化11年)の大坂の記録では、節分に食べるそばが「年越蕎麦」と呼ばれています(節分のそばが「年越蕎麦」と呼ばれた記録)。三重県内にも、節分を「年越し」「豆年越し」と呼ぶ地域があります。

地域で違う「何を挿すか・何に刺すか」

資料で確かめられた例を並べました(いまも続くかは地域や家庭によります)。

地域 魚・中身 刺す枝・飾り方 資料
東京の郊外 焼いたイワシの頭 ヒイラギの小枝に付けて、軒先や戸口へ 日本大百科全書
東北地方 イワシや切り餅 串に通して戸口や窓に挟む(戸ばさみ餅) 日本大百科全書
三重県 鰯のほかタツクリ(田作り)。漁業の盛んな志摩・東紀州ではボラ・エビ・サンマも 柊などの枝に刺し、出入り口や窓の外へ 三重県の県史編さん記事
長野県高森町の歴史民俗資料館(2017年の展示) 焼いたイワシの頭 ヒイラギに付けて玄関に掲げた。「蟹柊」「カニカヤ」と書いた札を貼るのも同じ意味だと同館が紹介 高森町歴史民俗資料館
千葉県の港町 丸干しいわし 節分の時期に柊鰯用として大量に作られる 農林水産省「aff」
各地(辞典の説明) 鰯の頭など 柊のほか大豆の小枝に刺す例も 世界大百科事典ほか

焼く場面にも土地の色が出ます。山梨県立図書館がレファレンス協同データベースに寄せた回答によると、「稲の虫もバリバリ、麦の虫もバリバリ」と唱えて唾を吐きかけるやり方があり、山梨県の例では「ヘビヘビ、ゲジゲジ」と何度も唱えながら焼き、その焼き方を口焼きと呼んだそうです。世界大百科事典も、こうした虫の口封じの唱え言がかつて広く行われたと記しています。鬼よけを作りながら、作物の虫よけまで願う土地があったわけです。

飾る日と外す日:決まりより「家と地域の習わし」

飾る日は、多くの資料が「節分の夜」「節分のとき」と書いています。節分は立春の前日で日付は年によって動き、2027年は2月3日です(雑節としての節分の日付と決まり方)。

外す日に全国共通の決まりはありません。茨城県の村松山虚空蔵堂(村松虚空蔵尊)のブログは、飾る期間の例として次を挙げています。

  • 節分の当日だけ
  • 1月15日の小正月(16日とする例も)から節分まで
  • 節分から2月の終わりまで
  • 節分から1年間

片付けについて同ブログは、神社でのお焚き上げを挙げ、時期が合わなければ酒と塩で清め、半紙に包んで処分する方法を紹介しています。お焚き上げを受け付けるかは社寺ごとに違い、家庭ごみに出すなら自治体の分別ルールを確かめましょう。

柊鰯のよくある誤解

誤解1:平安時代から節分に鰯を飾っていた

『土佐日記』に出てくるのは元日の門飾りで、魚もボラでした。節分の柊鰯として確かめられる記録は、今のところ江戸時代からとみられています(前述の吉海教授のコラム)。

誤解2:鬼を追い払うためだけの飾り

飾りも豆も、鬼ではなく神様に向けたものだとする読み方があります。豆は神へのお供え、戸口の飾りは家の者が身を慎んでいる(物忌み)しるしで、節分の夜には神霊が訪れるとみる解釈として、世界大百科事典(田中宣一執筆)が紹介しています。

誤解3:クリスマスの赤い実のヒイラギと同じ木

赤い実の西洋ヒイラギはモチノキ科で、モクセイ科の柊とは別の植物です。柊の実は黒紫色で、葉が一つの節に2枚ずつつく点でも見分けられます(武蔵学園の樹木図鑑)。

もうひとつ、「へぇー」を

「鰯の頭も信心から」ということわざは、1638年に序文が書かれた俳諧書『毛吹草』にすでに見えます。節分に門へ挿す鰯の頭の説明として生まれたのでは、と推測する研究者もいます。

編集:へぇ助

よくある疑問

Q. 柊が手に入らないときはどうする?

A. 決まった代わりはありません。資料には、大豆の小枝に刺す例や、「蟹柊」などと書いた札を貼る例があります。家や地域に伝わるやり方があれば、それを優先するとよいでしょう。

Q. 鰯は生のまま刺してもいい?

A. 呼び名のヤイカガシ(焼嗅)が示すように、焼いてから刺すのが一般的です。千葉県の港町では柊鰯向けに丸干しいわしが作られると紹介されており、干物を使う例もあります。

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出典・参考

※柊鰯を飾る時期・場所・片付け方は、地域や家庭によって異なります。本記事は資料にもとづく一般的な目安です。