先に結論:手水(てみず・ちょうず)は、お参りの前に手水舎(てみずや・ちょうずや)で手と口を清めることです。柄杓(ひしゃく)を使う場合、清める順番は「左手→右手→口(左の手のひらに受けた水で)」で、柄杓に口を直接つけないこと、使った水を水盤へ戻さないことが、公式の案内に共通する大事な点です。いっぽうで、前後の一礼や柄杓の後始末まで書くかどうかは、案内している神社・団体によって少しずつ違います。
まずはひとつ、「へぇー」を
参拝前に手や口を清める「ちょうず」は、国語辞典では便所へ行くことや便所そのものを指す語としても載っています。用を足したあと手を洗う習わしから、意味が広がったと説明されています。
編集:へぇ助
公式の案内を3つ並べてみると
手水のやり方は、ネット上ではほぼ同じ手順として紹介されています。ところが、神社関係の団体が出している案内を実際に読み比べると、どこまでを「作法」として書いているかに差があります。当サイトで、神社本庁、宮城県神社庁、北海道神宮奉賛むすび会(北海道神宮の崇敬者の会)の3つの案内を項目ごとに整理したのが次の表です。
| 項目 | 神社本庁 | 宮城県神社庁 | 北海道神宮奉賛むすび会 |
|---|---|---|---|
| 手水の前後に一礼 | 記載なし | 記載なし | 前と後の両方に一礼 |
| 左手→右手の順に清める | あり | あり | あり |
| 左の手のひらに受けた水で口をすすぐ | あり | あり | あり |
| 柄杓に口をつけない注意 | あり | 記載なし | あり |
| 口をすすいだあと左手に水を流す | あり | あり | 記載なし |
| 吐き出すとき左手で口元を隠す | 記載なし | 記載なし | あり |
| 柄杓の柄に水を流して伏せて戻す | 記載なし | あり | あり |
| 水盤に水を入れない注意 | あり | 記載なし | 記載なし |
「記載なし」は、その案内のページに書かれていないという意味で、やってはいけないという意味ではありません。表から分かるのは、手→口という骨組みはどこも同じで、違いが出るのは「礼」と「後始末」の部分だということです。細かい所作で迷ったら、骨組みを守ったうえで、その神社の掲示に合わせれば十分です。
3つの場面に分けて覚える
手順を6つも7つも丸暗記しようとすると、本番で頭が真っ白になりがちです。上の表で共通していた部分を、「手」「口」「後始末」の3つの場面に分けると覚えやすくなります。
場面1:手を清める
- 柄杓は右手で取り、水盤から水を汲みます。
- 汲んだ水を左手にかけます。
- 柄杓を左手に持ち替え、今度は右手にかけます。
場面2:口を清める
- 柄杓を右手に戻し、左の手のひらをくぼませて水を受けます。
- 手のひらの水を口に含んで軽くすすぎ、水盤ではなく足もとの排水側へ静かに出します。
- 口が触れた左手に、もう一度水をかけておきます。
場面3:後始末をする
- 柄杓を縦にして、残った水を持ち手のほうへ伝わせて流します。
- 水をすくう部分を下に向けて、元の場所へ戻します。
場面3は、次に使う人への気づかいとして考えると覚えやすい所作です。手で握った持ち手を水で流してから返す、という流れになっています。
手水舎の形がいつもと違うとき
新型コロナウイルスの流行をきっかけに、柄杓を撤去する神社が各地で出ました。たとえば三重県の多度大社は、柄杓をなくして流水で手水を受ける形に切り替えたと案内しています。いまは柄杓がない手水舎も珍しくないため、状況別にやり方を整理しておきます。
| 手水舎の状況 | やり方の目安 | 考え方 |
|---|---|---|
| 柄杓が置いてある | 上の3つの場面どおり | 標準的な形 |
| 柄杓がなく、竹筒などから水が流れている | 流れる水に左手、右手の順で手を出し、口をすすぐ場合は手のひらに受けた水で | 順番の考え方は柄杓のときと同じ |
| 水盤に花が浮かべてある(花手水) | 手や口を清めるのに使えるかは掲示を確認 | 飾り専用の場合がある |
| 水が止められ、消毒液などが置いてある | 神社の掲示に従う | 衛生上の理由で一時的に形を変えている |
| 川の流れで清める場所がある | 案内に沿って川の水で手を清める | 伊勢神宮の内宮など |
花手水は写真映えすることで人気ですが、神奈川県の出雲大社相模分祠は、花手水の水では手洗いも口すすぎもできないと明記していました。同じ「水盤」でも用途が違うことがあるので、見た目だけで判断しないのが安心です。
いっぽう伊勢神宮の内宮には、五十鈴川(いすずがわ)の岸に石畳を敷いた「御手洗場(みたらし)」があります。神宮の公式サイトでは、手水舎と同じように手を濯ぐことができる場所として紹介され、石畳は元禄5年(1692年)に徳川綱吉の生母・桂昌院が寄進したと伝えられています。手水舎という建物がなくても、流れる水そのものが同じ役目を担っている例です。
よくある誤解
誤解1:「手順がひとつ抜けたら作法違反」
先の表のとおり、公的な案内どうしでも書いている所作の範囲が違います。神社本庁の案内も、個々の所作を説明する前に、心身を清めるという目的をもって水盤に向かうことをいちばん大切な点として挙げています。順番の細部よりも、落ち着いて丁寧に行うことに重きがあると考えてよいでしょう。
誤解2:「使った水は水盤に戻しても同じこと」
水盤の水は、後から来る人も使います。神社本庁の案内は、手を洗う段階から水盤に水が入らないよう注意をうながしています。口をすすいだ水はもちろん、手にかけた水も水盤の外へ落とすようにします。
誤解3:「柄杓から直接すするほうが早い」
柄杓は大勢で共有する道具です。神社本庁と北海道神宮奉賛むすび会の案内は、どちらも柄杓に口をつけないよう明記しています。口に入れる水は、いったん左の手のひらに受けてから、と覚えておきましょう。
誤解4:「お寺では手水をしない」
手水舎は神社だけのものと思われがちですが、境内に手水舎を置くお寺も多くあります。お寺での細かな作法は宗派や寺院ごとに異なる場合があるので、案内があればそれに従います。神社とお寺のちがいについては「神社とお寺の違い」でも整理しています。
もうひとつ、「へぇー」を
手水の柄杓(ひしゃく)は、じつは瓢箪(ひさご)が由来。昔は瓢箪を半分に割って液体をすくっていて、『ひさご→ひさく→ひしゃく』と音が変化したもの。『柄杓』の字は後から当てられたと言われています。
編集:へぇ助
よくある疑問
Q. 「てみず」と「ちょうず」、どちらの読み方が正しいのですか?
A. どちらも使われていて、片方だけが誤りというわけではありません。今回読んだ案内では、神社本庁が「手水舍」に「てみずや」、宮城県神社庁が「手水」に「てみず」と読みがなを付けています。いっぽう日常会話や観光案内では「ちょうず」「ちょうずや」という読みも広く耳にします。参拝先の案内板にふりがながあれば、それに合わせると自然です。
Q. なぜ左手から清めるのですか?
A. 今回読み比べた3つの案内は、いずれも左手から始める手順を示していますが、その理由までは説明していません。理由を説明する話はいくつか出回っていますが、公式の根拠として確認できたものはないため、当サイトでは「案内に共通する順番」として紹介するにとどめます。
Q. 手を拭くものは必要ですか?
A. 手水のあとは手が濡れたままになるので、ハンカチやタオルを用意しておくと、その後のお賽銭や拝礼がスムーズです。お賽銭の入れ方は「お賽銭のマナー」で詳しく紹介しています。
Q. 手水が終わったら、次は何をしますか?
A. 参道を進んで拝殿の前へ向かい、拝礼をします。神社本庁は「再拝・二拍手・一拝」を基本形としつつ、神社によって独自の拝礼方法があればそれに従うよう案内しています。鳥居から拝殿までの一連の流れは「参拝の作法」にまとめています。
出典
- 神社本庁「参拝方法」(公式サイト「おまいりする」内・手水の作法/拝礼の作法)
- 宮城県神社庁「参拝の作法」
- 北海道神宮奉賛むすび会「手水の作法」
- 伊勢神宮「宇治橋・五十鈴川|皇大神宮(内宮)」
- 多度大社「新型コロナウイルス感染予防対策について」
- 出雲大社相模分祠「お清めの花手水」(2020年8月8日)
作法の細部は神社によって異なる場合があります。参拝先に掲示や案内があるときは、そちらを優先してください。