先に結論:戒名は、仏教の戒を受けて仏弟子になった証として、僧から授かる名前です。本来は生きているうちに受けるもので、亡くなった人に授ける形は日本の中で広まりました。呼び名は宗派で異なり、「法名」は浄土真宗、「法号」は日蓮宗で一般的な言い方です。位牌の長い戒名は院号・道号・戒名・位号という部品の組み合わせです。授かるときに納めるお金について、全日本仏教会は2000年に「戒名料」とは呼ばず、お布施だとする見解を示しています。
まずはひとつ、「へぇー」を
大河も海に入れば川の名が消えるように、出家すればみな「釈」を名乗るべき。4世紀中国の道安は僧の姓を釈と定め、のちにこのたとえを経典に見つけて決まりにしたと『高僧伝』は伝えます。
編集:へぇ助
戒名は「戒を受けた証」、本来は生きているうちの名前
戒名の「戒」は、仏教徒として守ると誓う生活の決まりのことです。曹洞宗の公式サイト(SOTOZEN-NET)を例にとると、仏・法・僧の三宝に帰依する三帰戒に、三聚浄戒と十重禁戒を合わせた十六条の戒を受けることが前提で、戒名はそれを受けて仏弟子になった印にあたります。
名前を受ける場面が葬儀だけではないことは、資料を「生前か、死後か」で並べ直すとよく分かります。
| 資料が伝える場面 | 名を受ける人 | 生前/死後 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 出家する人は得度式、在家の人は授戒会や帰敬式で受けるのが本来の形 | 戒を受ける本人 | 生前 | 日本大百科全書 |
| 生前に受ける戒名を「逆修(ぎゃくしゅ)戒名」と呼ぶ | 本人 | 生前 | 世界大百科事典 |
| 『平家物語』で平清盛が出家し、「浄海」と名のる | 出家した本人 | 生前 | 精選版日本国語大辞典 |
| 中世の後期には、亡くなった人に戒名を授けることがすでに行われていた | 故人 | 死後 | 精選版日本国語大辞典(語誌) |
| 江戸時代ごろ、墓石・位牌に戒名を書くことが暮らしに定着 | 故人 | 死後 | 山川日本史小辞典 |
| 亡くなってから授かるのは、生前にその機会がなかった場合 | 故人 | 死後 | 曹洞宗(SOTOZEN-NET) |
表を見比べると、戒名はもともと戒を受けた本人が名のる名前で、亡くなった家族に贈る使い方はあとから加わったものだと分かります。では、死後に名を贈るのは仏教の国ならどこでも見られる習わしなのでしょうか。精選版日本国語大辞典の語誌(ことばの歴史を解説する欄)が紹介するところでは、江戸時代の辞書『和訓栞』などが、この使い方を日本の外では例を見ないものとして取り上げています。中世の後期から江戸時代にかけて、日本の中で形を整えていった習わしと受け止めるのがよさそうです。位牌をどうまつるかは仏壇の意味と位牌の祀り方で扱っています。
「戒名」「法名」「法号」、呼び名が3つあるわけ
同じものを指しているのに呼び名がいくつもあるのは、ことばの歴史と、宗派が何を大切にするかの両方が関わっているからです。
先に使われていたのは「法名」のほうで、表に挙げた清盛の「浄海」もこれにあたります。「戒名」という語が加わるのは室町時代のこととされます(精選版日本国語大辞典)。では、なぜ呼び名がいくつもあるのでしょうか。日本大百科全書が「戒名」という言い方の広まった背景として挙げるのは、受戒の儀式を行わない浄土真宗の登場や、中世以降に出家した人が道号を名のる習慣が広がったことなどです。
| 宗派 | 呼び名 | 各宗派の資料が示す特徴 | 生前に授かる場 |
|---|---|---|---|
| 浄土真宗本願寺派 | 法名 | 「釋」+漢字2字。男女で書き分けない | 帰敬式(おかみそり) |
| 真宗大谷派 | 法名 | 男性は「釋」、女性は「釋尼」が基本で、願い出によって選ぶこともできる | 帰敬式 |
| 浄土宗 | 戒名(公式FAQは法名とも書く) | 院号・誉号・道号・戒名・位号の組み合わせ。「○誉」の誉号が目印 | 授戒会で戒名、五重相伝で誉号 |
| 曹洞宗 | 戒名 | 十六条の戒を受けた証として授かる名前。本来は生前に受ける | 授戒会(証として血脈を受ける) |
| 日蓮宗 | 法号 | 「日」を含む日号。道号に男性は「法」、女性は「妙」の字が多い(寺院の案内) | 予修授戒式・生前法号(寺院の案内) |
浄土真宗が「法名」を使うのは、受戒の儀式を持たないためです(精選版日本国語大辞典)。日蓮宗については、千葉県市川市の妙好寺(2025年の案内)が、法華経を受け持つことを何より尊い戒と考えるので「法号」と呼ぶ、と説明しています。
その日号の扱いは、寺によって説明に幅があります。妙好寺は日号を法号の中心に置き、必ず「日」の字を入れるとしています。これに対し、岡山県玉野市の観音寺(2015年の案内)は、およそ600年前に貢献の大きい在家の信者へ付けたのが日号の始まりで、日号を付けるなら位号は居士・大姉以上になると書いています。
浄土宗の誉号は、いまは在家向けの結縁五重を受けた信者にも授けられています。新纂浄土宗大辞典がたどる始まりは、鎌倉・光明寺の第三世となった定慧が自ら「良誉」と名のり、白旗派の人々に授けたことでした。
長い戒名を部品に分けて読む
位牌でよく見る「○○院△△□□居士」のような戒名は、上から院号・道号・戒名・位号の順に部品が重なっています。それぞれの意味と、辞典がたどる由来をまとめました。
| 部品 | 位置 | 何を表すか | 由来・出典 |
|---|---|---|---|
| 院号 | いちばん上(○○院) | 戒名の先頭に置く呼び名。部品の中でいちばん重く扱われる | 天皇や貴族を住まいの名、建てた寺の名で呼んだことから(日本大百科全書・世界大百科事典。詳しくは下の見出し) |
| 道号 | 院号の下の2字(△△) | 俗人の字(あざな)にあたる呼び名 | 僧が一定の段階に進んだとき、師などから受けた称号(精選版日本国語大辞典) |
| 戒名(法名) | 道号の下の2字(□□) | 仏弟子としての名の本体 | 戒を受けた証として授かる名(上の見出しを参照) |
| 位号 | いちばん下(居士など) | 在家の信者であることや、性別・年齢 | 信士は優婆塞、信女は優婆夷という在家信者の呼び名の訳(世界大百科事典〔旧版〕) |
4つの部品が今の形でそろうまでには、時間がかかっています。浄土宗の場合、新纂浄土宗大辞典は道号や院号が戒名に付くようになった時期を室町時代としていて、それより前は2字だけの戒名が普通でした。少なくとも浄土宗では、院号や道号といった上側の部品が、あとの時代に足されていったことになります。
位号のうち居士は、仏教の言葉としては出家せずに信仰の道に入った在家の男性を指します(精選版日本国語大辞典)。どの位号を付けるかについて、日蓮宗の妙好寺は信士・信女を標準とし、居士・大姉は信仰が篤く、寺や社会に大きく尽くした人に授けると説明しています。
禅僧の名前と並べると、道号の位置が分かる
位牌の「△△□□」の4字は、僧の名前の組み立て方とよく似ています。夢窓疎石を例に、二つを並べてみます。
| 比べる点 | 禅僧の名前(夢窓疎石) | 位牌の戒名(○○院△△□□居士) |
|---|---|---|
| 前半の2字 | 道号(夢窓) | 道号(△△) |
| 後半の2字 | 法諱(ほうき)=出家したときの名(疎石) | 戒名(□□)=仏弟子としての名 |
| 4字の外側 | 4字続けた形が正式な呼び名とされる | 上に院号、下に位号が付く |
日本大百科全書によれば、禅僧の名は多くの場合、道号と法諱を合わせた4字で正式に呼ばれます(道号を用いない一派もあるとされます)。位牌の戒名は、この4字の外側にさらに院号と位号が加わったもの、と整理すると、長い戒名もぐっと読みやすくなります。
「院殿」と「院」、どちらが上?
位牌には「○○院」で始まる戒名のほか、「○○院殿」で始まるものもあります。日本大百科全書によると、江戸時代には院殿号が院号より上位に置かれていました。その理由を事典ははっきり書いていませんが、二つの呼び名をどんな人が使ってきたかを比べると、手がかりが読み取れます。
| 呼び名 | 早い例として資料に出てくる人 | その後の広がり |
|---|---|---|
| 院号 | 譲位した天皇(嵯峨院・淳和院)、藤原兼家(法興院)、足利尊氏(等持院)(日本大百科全書・山川日本史小辞典) | 時代が下ると庶民にも(山川日本史小辞典) |
| 院殿号 | 足利尊氏(自ら開いた等持院から「等持院殿」)(日本大百科全書)。世界大百科事典は、もとを法成寺殿(藤原道長)・知足院殿(藤原忠実)に求めている | 歴代の将軍に冠され、江戸時代には武家一般へ(日本大百科全書) |
どちらも出発点は、住まいや自分で建てた寺の名前で人を呼ぶ習わしでした。世界大百科事典は、在家の人も修行は寺で行うというたてまえがあり、自宅を寺の院になぞらえる考え方が背景にあると説明しています。そこから先の道筋が分かれ、院殿号は将軍家から武家へと使い手が広がり、院号のほうは庶民にまで届いていきました。上下の差がついたのは、こうした使い手の違いと重なっていると読み取れます。
生前に名を受ける儀式は宗派ごとに違う
- 浄土真宗の帰敬式(おかみそり):西本願寺は生涯に一度の儀式と案内し、本山で受けるときの冥加金を成人12,000円、未成年6,000円としています(2026年10月時点の本山案内)。大谷派の案内によると、帰敬式では剃刀を頭に3度あてる所作だけで、髪を落とすことはしません。帰敬式の意味は存命中に受けるところにある、というのが同派の説明です。
- 浄土宗の授戒会・五重相伝会:授戒会では戒名、五重相伝会では誉号を授かります。浄土宗の公式サイトによれば、五重相伝の日数は本来7日間で、近年は5日間が多く、生前に受けられなかった故人に向けて「贈五重」という回向を行うこともあります。授戒会の縁がないまま亡くなった人には、没後に剃髪と授戒を行って戒名を授けるとされます(新纂浄土宗大辞典)。
- 曹洞宗の授戒会:戒を授かった証として「血脈(けちみゃく)」を受けます(SOTOZEN-NET)。
- 日蓮宗の予修授戒式など:東京都台東区の要伝寺は、生きているうちに戒を授ける「予修授戒式」で法号を授けています。妙好寺は、菩提寺があるのに別の寺や業者で法号を受けると、納骨のときに行き違いが起きることがあるとして、先に菩提寺へ相談するよう勧めています。
浄土宗の案内では、四十九日までは白木の仮位牌に戒名を書いてまつります。四十九日までの日数の数え方は四十九日の数え方と中陰の法要にまとめました。
「戒名料」という言葉と、お布施の考え方
日蓮宗現代宗教研究所が公開している論考(岩田親靜「葬儀を考える─布施について」)には、全日本仏教会が2000年(平成12年)1月に示した見解が引かれています。それによると同会は、「戒名(法名)料」という言い方を今後は用いないとし、僧侶や寺が受け取る金品はすべてお布施であって、戒名は売り買いするものではないと理由を述べました。2011年には、お布施を料金表のように載せていたウェブサイト2件(3月の「葬儀本.com」、9月の「おぼうさんどっとこむ」)に対し、同会が掲載の削除を求めています。理由の一つに挙げたのは、地域ごとの慣習や慣行を大切にすべきだという点でした。
一方で、本山が条件を公表している例もあります。西本願寺の案内(2026年10月時点)では、院号は宗門に貢献した人や、永代経懇志として20万円以上を納めた人に授与されます。本山の帰敬式で法名の字に希望を出す「内願」は、所属寺院の住職を通じて2か月前までに申請し、内願法名懇志を別に1万円以上納める決まりです。どちらも本山での扱いなので、各地の寺の考え方とは分けて受け止めておきたいところです。
こうした本山の例を除けば、今回確かめた宗派・仏教団体の公式資料に、戒名の種類ごとの金額を一律に示したものはありませんでした。地域や寺によって慣行が違うため、気になる点は菩提寺に率直に尋ねるのが確実です。
戒名をめぐるよくある誤解
誤解1:戒名は亡くなってから付く名前
葬儀で初めて目にする人が多いため死後の名前と思われがちですが、最初の表で見たとおり、本来は戒を受けた本人が生きているうちに受ける名前です。生前でも葬儀でも、名前を授けるのは菩提寺の住職などの僧侶です。僧侶の呼び方は住職・和尚など僧侶の呼び名の違いで整理しています。
誤解2:浄土真宗の法名にも居士や信女が付く
ほかの宗派の位牌を見慣れていると、浄土真宗の法名にも居士・大姉・信士・信女といった位号が付くと思われがちです。ところが両本願寺の公式資料が示す法名の形は、それとは違います。浄土真宗本願寺派の「法名の授与に関する寺達」(2012年2月10日付・同年4月1日施行)は、法名を「釋」を冠した漢字2字と定めています。真宗大谷派も、「釋」または「釋尼」に2字を添えた形を、仏弟子になったことを名のる名前としています。どちらの資料にも、位号を付け加えた形は示されていません。大谷派は葬儀・法事についての案内で、信士・信女は戒律を受けた人の戒名であり、受戒のない浄土真宗にはなじまないという立場をはっきり示しています。
ほかの宗派では位号が男女の区別を担いますが、浄土真宗では、本願寺派が男女で書き分けずに「釋○○」のひとつの形を用い、大谷派は「釋尼」で女性であることを表せる、という違いがあります。なお、西本願寺には院号の授与があるので、院号と位号は分けて考える必要があります。
誤解3:戒名は家族が考えて付けてよい
曹洞宗の公式FAQは、戒名を授けるのは住職であり、自分の好みで付ける名前ではないという立場です。同じFAQには、菩提寺に知らせないまま葬儀を済ませた場合、葬儀をやり直して戒名を授かる必要が出る場合もある、と書かれています。家族が亡くなったときは、まず菩提寺に連絡しておくと行き違いを防げます。
もうひとつ、「へぇー」を
中国の禅僧は、住んだ山や寺の名で呼ばれることがありました。洞山良价の「洞山」もその一つです。日本大百科全書は、道号はこの呼び方にならったものとし、その始まりを“住所”のような呼び名に見ています。
編集:へぇ助
戒名についてのよくある疑問
Q. 子どもの戒名にも位号は付く?
A. 日本大百科全書は、子どもに付ける位号として童子・童女、孩児(がいじ)・孩女(がいにょ)、禅童子などを挙げています。日蓮宗の妙好寺のように、年齢に応じて童子・童女と孩子・孩女を使い分けると説明する寺院もあるので、詳しくは菩提寺に確かめてください。
Q. 戒名の字に希望を伝えることはできる?
A. 寺の考え方によります。西本願寺には前述の内願という手続きがあります。浄土宗には、戒名を選ぶときの心得として「三選三除」が伝わっています(新纂浄土宗大辞典)。選ぶ側の「三選」は、熟語の善悪、音便(読むときの音の変化)の可否、年齢への応不応(ふさわしいかどうか)の3つの基準です。避ける側の「三除」は、奇妙で難しい字、意味のない字、穏やかでない字の3つを指します。同じ辞典は、信仰の深さや人柄、年齢などを考えて授けるものとしているので、故人の人となりを住職に伝えておくと相談しやすくなります。
Q. 帰敬式を受けないまま亡くなったら、法名はどうなる?
A. 本願寺派の寺達(第3条)は、帰敬式を受けていない門徒が亡くなったときは、所属寺院の住職が法名を授けることができると定めています。
Q. 日蓮宗でも「戒名」と呼んでいい?
A. 日蓮宗ポータルサイトの「仏教・仏事のQ&A」は、法号のことを法名・戒名とも言うと説明しています。宗派として用いる呼び名は法号ですが、戒名と言っても同じものを指していると考えてよいでしょう。
関連記事
出典・参考
- 戒名(カイミョウ)とは? 意味や使い方 – コトバンク(精選版 日本国語大辞典・改訂新版 世界大百科事典・日本大百科全書・山川 日本史小辞典)
- 院号(インゴウ)とは? 意味や使い方 – コトバンク/道号(ドウゴウ)とは? 意味や使い方 – コトバンク
- 居士(コジ)とは? 意味や使い方 – コトバンク/信士(シンジ)とは? 意味や使い方 – コトバンク(信士は世界大百科事典〔旧版〕の項)
- 戒名|新纂浄土宗大辞典/誉号|新纂浄土宗大辞典
- よくあるご質問|浄土宗【公式サイト】
- よくあるご質問(FAQ)|曹洞宗 曹洞禅ネット SOTOZEN-NET 公式ページ/特別行事|曹洞宗 曹洞禅ネット SOTOZEN-NET 公式ページ
- 法名の授与に関する寺達|浄土真宗本願寺派
- 各種お申込み|龍谷山 本願寺【お西さん(西本願寺)】
- 法名をいただく(帰敬式)|真宗大谷派(東本願寺)
- 葬儀・法事・お墓のこと|真宗大谷派(東本願寺)
- お葬式について|仏教・仏事のQ&A|日蓮宗ポータルサイト
- 人生の輝きを、永遠の名に込めて ~日蓮宗の法号に触れる~|妙好寺(日蓮宗)/逆修法号、生前戒名を考えておられる方へ|天空の鳥居 観音寺(日蓮宗)/生前戒名の勧め|法住山 要伝寺(日蓮宗)
- 葬儀を考える─布施について|日蓮宗 現代宗教研究所
- 「おぼうさんどっとこむ」に掲載されている法要料金の価格一覧に対して削除の要請|全日本仏教会/「葬儀本.com」に掲載されているお布施の価格一覧に対して削除の要請|全日本仏教会
※戒名・法名・法号の付け方や呼び方、お布施の考え方は、宗派・寺院・地域によって異なります。本記事は各宗派・寺院・辞典の公開資料をもとにした一般的な整理です。実際のことは菩提寺にご確認ください。