お屠蘇とは?飲む順番の理由と屠蘇散の中身・作り方、子どもや飲めない人はどうする?

先に結論:お屠蘇(おとそ)は、元日に家族で祝う正月の祝い酒です。中身の「屠蘇散」を4つの資料で比べると、どれにも入っていたのは山椒・肉桂(シナモン)・桔梗の3つでした。日本酒や本みりんに数時間から数日浸して作ります。年の若い人から順に飲むのが古い作法とされますが、順番も使うお酒も地域や家庭で異なります。本みりんで作ってもお酒なので、20歳未満の人や運転する人は飲むまねにとどめます。

まずはひとつ、「へぇー」を

屠蘇が日本の詩に登場する早い例の一つは、大宰府へ流された菅原道真の元日の詩です。合掌して観音を念じ、屠蘇の盃は手に取らない、とつづりました。祝いの盃に手を伸ばさない元日もあったのです。

編集:へぇ助

屠蘇散の中身を4つの資料で比べる

昔の処方から現代の紹介まで、4つの資料に挙がる主な生薬を当サイトで表にしました(○=記載あり、—=記載なし)。

生薬 昔の処方(『本草綱目』『本朝食鑑』) 日本大百科全書 東邦大学の実習 薬剤師の紹介(政府広報オンライン)
山椒(蜀椒) ○ ○ ○ ○
肉桂・桂皮(シナモン) ○(桂心) ○ ○ ○
桔梗(キキョウの根) ○ ○ ○ ○
朮(白朮・蒼朮など) ○(赤朮) ○(白朮) ○(蒼朮) —
防風 ○ ○ ○ —
陳皮(ミカンの皮) — — ○ ○
丁子(クローブ)・大棗(ナツメ) — — — ○
大黄・烏頭(トリカブトの根) ○ — — —

4つすべてに入るのは、山椒・肉桂・桔梗の三つだけです。中国・明代の薬学書『本草綱目』や江戸時代の『本朝食鑑』の処方には、作用の強い大黄(だいおう)や烏頭(うず)まで入っていますが、日本国語大辞典によれば近代の屠蘇散には含まれません。同じ名の薬でも、中身は時代とともに変わってきました。

「屠蘇」という名前は何を表す? 4つの説

「屠」を打ち負かす意味の「ほふる」と読む説が目立つ一方、二字で一つの名前とみる説もあります。

説 「屠蘇」の読み解き 挙げている資料
鬼を退治する 「蘇」は鬼の名で、それを打ち倒す ブリタニカ国際大百科事典、東邦大学の資料
邪気を払い、よみがえる 悪い気を断ち、魂を生き返らせる 宝酒造、政府広報オンライン
いおりの名 大晦日ごとに村の人へ薬を届けた人の、いおりの名から 世界大百科事典(流布してきた説として)
草の名 中国の西方から伝わった植物の名 世界大百科事典(「ともいう」と控えめに)

処方は、中国の名医・華佗(かだ)が考えたと伝わります(宝酒造、日本国語大辞典)。どの説も言い伝えの範囲です。

宮中の元日の薬から、家庭の祝い酒へ

  • 中国の記録:今に伝わる『荊楚歳時記』(梁の宗懍の書に、隋の杜公瞻が注を付けたもの)には、元日の品の一つに屠蘇酒が出てきます。ただ屠蘇の箇所は後世の書き加えとみる研究もあり、世界大百科事典は屠蘇を唐代に始まる習わしとしています。
  • 9世紀初めの日本:嵯峨天皇のころ宮中で用いられ始めたと伝わり、東邦大学の資料は弘仁2年(811年)とします。
  • 平安時代の宮中:法令集『延喜式』に、元日に天皇へ進める薬として屠蘇の名が見えます(日本国語大辞典)。支度には井戸も使われました。なぜ井戸なのかについて、日本大百科全書は「春の象徴である青陽の気が地中より昇るのを受けるため」と説明しています。屠蘇散の袋は大晦日から元日の朝まで井戸で過ごし、それから酒へ移されました(世界大百科事典・日本大百科全書。調えたのは医薬の役所の典薬寮)。
  • 江戸時代:将軍家の正月にも屠蘇の儀式があった一方(日本大百科全書)、庶民の家に届いたのは甘口の酒として本みりんが普及したころだと、政府広報オンラインの記事は説明しています。

若い人から飲むのはなぜ? 順番の由来と家ごとの違い

現行の『荊楚歳時記』は元日の酒を年の小さい者から飲むと書き、屠蘇に限らず、その日の酒すべての決まりとして扱っています。理由は同書の注に引かれた董勛(とうくん)の答えにあり、若者は年を一つ得るのでまず祝い、年寄りは一つ失うので後に回す、という理屈です。宮中にも先に口をつける役があり、未婚の少女が務める薬子(くすこ)でした(日本大百科全書)。

いまの家庭では、厄年の人だけ最後に回す、年長者から始める、全員いっせいに飲むといった例もあり、若い順の場合は若い人の生気を年長者へ渡す意味と説明されます(東京ガス)。東を向いて飲むのを古い作法とする辞典もあります(日本国語大辞典)。

作り方と器、浸すお酒は資料と土地で違う

浸す時間も資料ごとに違います。

資料 浸すもの いつ・どれくらい
昔の作法(日本国語大辞典) 酒 井戸で一夜(大晦日から元日)、そのあと酒へ
宝酒造 本みりん180ml 大晦日の夜に入れて一晩
東京ガス(監修記事) 日本酒と本みりん計300ml程度 7〜8時間
瑞鷹(熊本の赤酒) 赤酒約300ml 8時間ほど
東邦大学の実習 酒 12月28日ごろに入れて2〜3日

器は銚子と三段重ねの盃が改まった形とされますが、家にある酒器で構いません(東京ガス)。浸すお酒には土地の色も出ます。熊本では、木灰を使って造る灰持酒(あくもちざけ)の赤酒が正月の屠蘇酒として親しまれ(瑞鷹)、鹿児島の地酒も同じ灰持酒で、正月の屠蘇をはじめ祝いの場で使われてきました(鹿児島県)。

子ども・運転する人・お酒を飲まない人は

お屠蘇は縁起物でも、お酒です。「二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律」は第1条で20歳未満の人の飲酒を禁じ、未成年の子の飲酒を知った親権者などには制止を求めています。本みりんもアルコール分約14%の酒類調味料で(全国味淋協会)、みりんだけで作っても子どもは飲めません。

子どもは空の盃を口もとへ運ぶまねや、ジュースを注いだ盃で祝いに加われます。運転する人やお酒が苦手な人も、飲むふりで十分です(東京ガス)。屠蘇散を紅茶などに加える楽しみ方を挙げる薬剤師もいます(政府広報オンライン)。

お屠蘇のよくある誤解

誤解1:昔はどの家でも、屠蘇散入りのお屠蘇を飲んでいた

表のとおり、お屠蘇の姿は家や土地でまちまちです。今も「お屠蘇」の呼び名が、屠蘇散を入れない日本酒そのものを指す土地があります(東京ガス)。昔についても、薬入りの屠蘇が地方の暮らしにまで根づいたかどうかには慎重な見方があります(日本大百科全書)。正月に長寿を願う飲み物も屠蘇だけではなく、同じ事典は若水でいれる福茶などを挙げています。

誤解2:お祝いの一杯で薬の効き目が得られる

生薬の働きを紹介する薬剤師もいますが(政府広報オンライン)、少量では効き目は期待できず、飲みすぎないよう注意を促す解説もあります(東京ガス)。邪気払いも言い伝えとして受け止めたいところです。

もうひとつ、「へぇー」を

屠蘇散のかすには、飲んだあとにも出番がありました。『本草綱目』に載る作法では、それを再び井戸へ投げ入れ、その水を毎年飲めば一生病まないとされます。願いは盃から、家の井戸水にまで及んでいたのです。

編集:へぇ助

お屠蘇のよくある疑問

Q. おせちやお雑煮と、どちらが先?

A. 政府広報オンラインの記事は、おせちに箸をつける前にお屠蘇をいただくのが伝統的な順序としています。日本大百科全書でも、家族でお屠蘇を祝ってから雑煮という流れです。具の意味はおせち料理の由来と具の意味で紹介しています。

Q. お屠蘇を飲むのは元日だけ?

A. 中心は元日の朝ですが、百科事典マイペディアは元日か三が日に、東邦大学の資料は正月の松の内に用いるものとしています。松の内の長さは地域で違い、正月飾りを出しておく期間と松の内の地域差で比べています。

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出典・参考

※お屠蘇の作り方・飲む順番・使うお酒は、地域や家庭によって異なります。20歳未満の人の飲酒は法律で禁じられています。本記事は資料にもとづく一般的な目安です。