お雑煮の地域差は?角餅と丸餅の境目・焼くか煮るか・汁の違いを全国調査で比較

先に結論:お雑煮の地域差は、「餅の形」「餅の温め方」「汁の味」「具」の4つで整理できます。2002年正月の全国調査では角餅は東日本、丸餅は西日本に多い結果でしたが、県別の数字を道筋ごとに並べると境目は県境にそろわず、山形・高知・鹿児島には周りと違う形の餅が多い「飛び地」もあります。味付けはしょうゆが最も多く、味噌仕立ては三重を除く近畿と福井、香川・徳島に多めでした。

まずはひとつ、「へぇー」を

福岡県の朝倉地域には、器ごと蒸して作る珍しい雑煮が伝わります。卵を溶いただしで餅や具を蒸し上げる、いわば茶碗蒸しのお雑煮で、文化庁の「100年フード」にも認定されています。

編集:へぇ助

お雑煮の違いは「4つの軸」で比べる

全国調査(畑江敬子ほか、日本調理科学会誌、2003年)をもとに、軸ごとに整理しました。

軸 主な分かれ方(2002年正月の調査) 型に収まらない例
餅の形 角餅は東日本、丸餅は西日本に多い(全国では角55.8%、丸44.2%) 山形に丸餅、高知・鹿児島に角餅
餅の温め方 焼く・焼いてから煮るは東北・関東・甲信・北陸、煮る・ゆでるは東海・中国・四国・九州に多い 沖縄はオーブントースターで焼く家庭が目立つ
汁の味 最も多いのはしょうゆ。味噌は三重を除く近畿と福井、香川・徳島に多い 鳥取は砂糖で甘くした小豆汁が目立つ
地域色の出る具 全国の上位はにんじん・大根・鶏肉・かまぼこ 新潟のサケ・イクラ、福岡のブリやかつお菜

同じ論文が統計の手法で雑煮を分類すると、最初の分かれ目は餅の形ではなく、鶏肉を入れるかどうかでした。

角餅と丸餅の境目は「線」ではなく「帯」

農林水産省の広報誌aff(2020年1月号)は、境目を関ケ原あたりとしています。全国調査の論文(畑江ほか)は県別の角餅の割合から境目を探り、関ケ原の通る岐阜・滋賀の県境のほか、石川県と三重県の県内にも見ています。

道筋 角餅の割合(東から西へ) 切り替わる場所
内陸(関ケ原を通る) 岐阜95.4%、滋賀15.4% 岐阜と滋賀の県境
日本海側 新潟92.6%、富山86.5%、石川58.9%、福井5.6% 石川県の中
太平洋側 愛知90%、三重70%、奈良19.0%、和歌山12.5% 三重県の中

3つの道筋のうち、くっきり入れ替わるのは関ケ原をはさむ内陸だけで、海側では切り替わりが県の中にずれ込みます。

石川と三重に丸餅が混じるわけを、論文は加賀と能登、伊勢・志摩・伊賀で文化が分かれていた歴史と結びつけています。東の角餅について、affは江戸時代に生まれた切り餅が運びやすさから江戸から広がったと説明しています(由来は諸説あり)。

飛び地と、持ち込まれた雑煮

  • 山形県:日本海側の庄内地方は北前船の寄港地で、上方の文化が入りました。丸餅はその影響といわれ、県全体でも45.3%が丸餅でした。
  • 高知県・鹿児島県:角餅がそれぞれ82.1%、55.4%。理由は、山内氏が遠州掛川から伝えたという高知の説(論文)と、両県の藩主が長く江戸にいたため(aff)とに分かれます。
  • 北海道:明治から大正の移住者が故郷の雑煮を再現し、山形出身の家には丸餅の雑煮が伝わってきました(北海道農政事務所)。
  • 沖縄県:もともと雑煮の習慣はなかったとされ、2002年の調査で食べた人は64.2%で、論文中で最も低い値でした。

「雑煮」という名前と、記録に残る姿

漢字の書き方は一つではありません。二つの百科事典の説明を、字の読み解き方ごとに当サイトで並べ直しました。

書き方 字の読み解き 使われた場面
雑煮 「雑」はさまざまな物の取り合わせ。いろいろな具を一緒に煮る料理 今の一般的な書き方
保臓・臓煮 体の内側(五臓)をいたわる料理と読む。臓煮も同じ意味づけ 昔の上方の呼び方。臓煮は料理の流派・四条流園部派の書き方
烹雑 「烹」は煮ること。音は保臓と同じ「ほうぞう」で、伊勢貞丈はこれを保臓の意味とした 宮中の女房詞

15世紀末の料理書『山内料理書』では、「夏肴くみ之事」という夏の酒肴の項に雑煮の名が見えるとされ、正月だけの料理ではなかったと読めます。世界大百科事典が描く室町時代前半の雑煮も、正月の祝い膳というより、主に儀式の酒宴で出された品です。正月料理になった時期は、同事典が室町時代の末ごろとみる一方、全国調査の論文(畑江ほか)は、正月の煮物として食べ始めたのは江戸時代の初めと考えています。始まりも、神仏への供え物を下ろして煮たとみる民俗学と、武家から庶民へ広がったとみる歴史学とで見方が分かれます。正月に神を迎える飾りは正月飾り(門松・しめ飾り・鏡餅)の意味で紹介しています。

時期 手がかりの資料 具として挙がるもの
室町時代の終わりごろか 『庖丁聞書』(日本国語大辞典の用例) 串アワビ・串ナマコ・大根・青菜・花がつおを上に置く
江戸時代後期 屋代弘賢が諸国に出した問い合わせ(『諸国風俗問状答』) 青菜・芋・大根・人参・田作りを「通例」とする
2002年正月 全国2,633家庭の調査 にんじん・大根・鶏肉・かまぼこの順に多い

よくある誤解と、説が分かれる話

  • 誤解:角餅なら必ず焼き、丸餅なら必ず煮る
    東は焼いた角餅、西は煮た丸餅という大まかな傾向は調査にも表れますが、決まりではありません。名古屋の雑煮は角餅を焼かずに煮ます。affは、焼くことが「城が焼ける」に通じるのを嫌ったと紹介しています。京都の白味噌雑煮では丸餅を焼くこともあるとされます。
  • 誤解:西日本の雑煮は白味噌
    味噌仕立てが多いのは三重を除く近畿と福井、香川・徳島です。日本大百科全書は、岡山より西ではすまし仕立てが多いとしています。
  • 誤解:雑煮のだしは、ほとんどの家が顆粒だし
    2002年の全国調査の時点では、かつお節や昆布など素材から取るだしが60.4%で、風味調味料の26.5%を大きく上回りました。

説が分かれる話:「みそをつける」は、しくじって面目を失うことを表す言い回しです。この言葉を縁起が悪いと侍が嫌ったことに、関東の雑煮に味噌を入れない理由を求める説があり、日本大百科全書が紹介しています。愛知県の雑煮を調べた論文(間宮ほか)は要旨で、同県にすまし仕立てが多いことを、味噌仕立てを避けた武家社会の歴史の名残とまとめました。本文では、しょうゆが貴重な土地では晴れの日に使ったという別の研究者の推察や、東日本でしょうゆの製造量が多いこと(2013年の統計)にも触れています。

正月の餅を安全に食べるために

消費者庁の分析(2018〜2019年)では、餅による窒息死亡事故の43%が1月に起き、とくに正月三が日に多くなっていました。同庁の勧める食べ方は次のとおりです。

  • 餅は小さく切り、一口を無理のない量にする
  • お茶や汁物で喉を潤してから食べる(よく噛まずに流し込まない)
  • ゆっくりよく噛み、高齢の家族が食べるときは周りも見守る

鏡餅のカビや保存の注意は鏡開きの日付と、割った鏡餅を安全に食べるコツにまとめています。

もうひとつ、「へぇー」を

1603年にイエズス会が長崎で刊行した『日葡辞書』にも「ザウニ」の語があり、正月に食べる煮物と説明されています。宣教師が日本語を学ぶための辞書に、お雑煮も載っていたのです。

編集:へぇ助

お雑煮のよくある疑問

Q. お雑煮はいつ食べるもの?元日だけ?

A. 世界大百科事典は正月三が日の祝い膳としています。2002年の調査で食べた人の割合は、2日に42.5%、3日に26.8%と減っていました。雑煮と並ぶ祝い料理はおせち料理の由来と代表的な具の意味で整理しています。

Q. 香川のあん餅雑煮は、なぜ甘いの?

A. 同じ農林水産省の資料でも説明がずれています。「うちの郷土料理」は明治ごろを始まりとし、ふだん手の届かない砂糖を年に一度の正月に使った料理と位置づけます。広報誌affは江戸時代の高松藩までさかのぼり、藩が厳しく管理した和三盆を、役人の目を避けてあんに混ぜたという言い伝えを挙げています。

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出典・参考

※雑煮の作り方や具、食べる日は地域・家庭によって異なります。本記事は資料にもとづく一般的な目安です。